ダイバーシティコラム

講師VOICE

NEW

多様性が活きるインクルーシブな組織づくり:組織開発の視点

企業の包摂性を高めるための取り組みは、個々人の意識改革、一対一のコミュニケーション、チームの関係性への働きかけ、組織文化の変容、そして制度や仕組みづくりまで多岐にわたります。前回のコラムでは、その中でも個人の意識のあり方に関係するアンコンシャス・バイアスについて触れました。

今回のコラムでは「組織開発」の視点から、インクルーシブなチームの関係性や組織文化のあり方を提示していきます。

 

 

組織開発の視点の必要性

企業におけるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の取り組みとして、様々な制度の整備に加え、個人の意識改革やスキルアップを目的とした研修の実施が挙げられます。たとえば、女性活躍推進を目的とした女性向けのキャリア研修、女性管理職を増やすことを目的とした次世代女性リーダー育成研修、そして最近増えてきているのが前回のコラムで取り扱ったアンコンシャス・バイアス研修、他にもLGBT研修などがあります。これ以外にも役員向け勉強会や全社イベントでD&Iをテーマに取り上げるという例もありますが、これらの多くが人材育成の領域と言えるでしょう。

しかし、本当の意味でD&Iを推進しインクルーシブなチームや組織の文化を醸成するには、個々人の意識の変容やスキルアップだけでは十分とは言えません。

メンバー間の関係性に目を向けること、またチームの関係性に影響を与えている組織文化にも目を向けることが必要です。いくら研修で意識が高まったり、スキルを持ち帰ったりしても、個よりも大きなチーム、そして組織の文化に結局は飲み込まれ、実践が続かない、実践しても心が折れてしまう、元に戻ってしまう、ということは、残念ながらよく耳にします。

チーム内の関係性やコミュニケーション、慣習をD&Iの視点から見直し、インクルーシブな文化を意識的に築いていくことが個々人の実践を支えることにもつながります。

 

 

関係性の中に存在する特権性

インクルーシブなチームや組織づくりにおいて、欠かすことができない視点の一つが、関係性の中に存在する特権性です。

特権性とはあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、組織の中での優位性、または有利さと言い換えることもできるでしょう。上智大学の出口真紀子氏は、これを「ある社会集団に属していることで労なくして得る優位性」と定義しています。性別でいえば男性、多くの日本企業における日本国籍の日本語ネイティブ、健常者や異性愛者、新卒でその会社に入社し働き続けていることも、企業の中での有利さにつながるかもしれません。

皆さんの企業では、どのような属性や立場の人が有利な立場に立ちやすいでしょうか。または有利な立場にいる人たちはどのような属性や立場の人が多いでしょうか。ここでのポイントは、様々な多様性が「違い」として、ただフラットに存在しているのではなく、実はそれが特権性と言われる優位性と関係していて、インクルーシブなチームを作る上では、関係性の中にあるこの差異を踏まえることが大切だということです。

またこの有利な立場、不利な立場というのは一元的に決まるものではなく、多元的なもの、かつ複合的なものであり、置かれている状況の影響も受けるということを踏まえておく必要もあります。例えば、年功序列型の組織では基本的には年配の社員に大きな発言権がある一方で、ITの活用という場面になった時には若手が有利な立場に立つこともある、というようなケースです(若手が必ずしもITスキルに長けているとは限らないですが、有利な立場・不利な立場は状況によって変わり得る一例として挙げています)。

これらを考慮に入れた時に、日常のチーム内のコミュニケーションや情報共有、会議などで誰の意見が聞かれやすく、誰の声が見落とされがちか、お互いの関係の中で何が起こっているのかを改めて考え直すことができると思います。

 

 

様々な声に耳を傾ける

人材開発と組織開発の領域をはっきりと切り分けることはできませんが、組織開発の視点の中でも、今回は特にチームメンバー同士の関係性や文化に着目していきます。協働するメンバーの多様性が増すほど、ミスコミュニケーションや葛藤が起こりやすくなるのは想像に難くないでしょう。そのような状況においては、仕事を進める上で関係がないと思われがちなことこそが重要となります。

仕事を通じて、お互いの関わりのなかで起こる考えや感情、意識の動きなどに目を向け働きかけることが、関係性の質を高めます。この働きかけがチームを機能させていくためには欠かせません。

組織開発の定義も諸説ありますが、「組織の健全さ、効果性、自己革新力を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協働的な過程である」というワーリックの定義を借りるならば、まずは関係性の中で起こる感情・思考・意識の動きなどに目を向け、気づき、言語化して伝え合い、チームとして学習し続けていく必要があります。

その際には、その場に呼ばれていない人はいないか、誰もが公平に発言の機会を与えられているか、安心して本音をいうことができるか、発言をしても聞いてもらえない、理解してもらえない、というようなことが起こっていないかといった点を、特権性の視点から見直すべきでしょう。意識的にコミュニケーションのあり方を変えていくことが、インクルーシブなチーム、組織文化づくりにつながります。

 

 

<参考>

中原淳、中村和彦.(2018).組織開発の探究:理論に学び、実践に活かす

 

<執筆>

ダイバーシティ&インクルージョンコンサルタント、東京大学バリアフリー教育開発研究センター 特任研究員:藤原 快瑤

一覧に戻る