ダイバーシティコラム

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多様性が活きるインクルーシブな組織づくり:インクルーシブな組織づくりを阻むもの

前回のコラム「多様性が活きるインクルーシブな組織づくり:ダイバーシティ推進のその先」では、ダイバーシティとインクルージョン(以下D&I)それぞれの言葉が表す意味と、企業における取り組みの必要性について紹介いたしました。

多様なメンバーが組織への所属感を感じつつ、自分らしく独自性を発揮しながら活躍できる状態がインクルージョンだとしたときに、企業の包摂性を高めるために改善が求められることとして、個々人の意識改革、一対一の関係におけるコミュニケーションのあり方、チームの関係性への働きかけ、組織文化の変容、そして制度や仕組みづくりまで多岐にわたります。今回は、その中でも、一人ひとりの「意識」に関連するアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)とその影響についてまとめています。

 

 

アンコンシャス・バイアスとは

日本語では無意識の偏見と訳されますが、無意識のうちに生じる認知の歪みを指していて、自分の思い込みや先入観による決めつけとも言うことができます。

アメリカの行動経済学者であり心理学者でもある、ダニエル・カーネマンによると、私たちの脳は1秒間で1,100万ビットの情報を受け取っているにもかかわらず、意識的に処理できる情報量はたったの40ビット、つまり受け取っている情報量の99.999996%は意識的に処理されていないのだそうです。

アンコンシャス・バイアスとは、脳の自己防衛機能として、限られた情報を元に脳が情報を処理する際のショートカットであり、私たちがこれまで家族、学校、友人、メディアなど様々なところから受け取ってきた情報の影響を受けて形成されるものでもあります。

アンコンシャス・バイバスそのものの詳細や種類などの説明は、既に様々な書籍や記事が出ているのでそちらに譲ることとして、ここからはアンコンシャス・バイアスが実際の職場でどのような影響を及ぼし得るのかについて整理します。

 

アンコンシャス・バイアスの例とその影響

「お客様を訪問した際に、先方は男性と女性の2名で、無意識的に男性が上位者だと思って先に名刺交換をしたら、実は女性の方が上司だった」

このような経験、または似たような経験をされた方がいらっしゃるかもしれません。性別、年齢、国籍などの属性や学歴、その人のキャリアなどについて、私たちの脳は、これまでの経験や受け取ってきた情報に基づいて、ほとんどが無意識の領域で情報の処理をするわけですが、それが常に正しいとは限りません。

 

前にいた部署が営業部だったからといって、その人のコミュニケーションスキルが必ずしも高いとは限りませんし、若手だからといってITが得意とも限りません。ポイントは、アンコンシャス・バイアスが職場に及ぼすよくない影響の可能性です。意思決定の質が下がったり、決めつけや思い込みによる居心地の悪さが個々人のモチベーションを下げたり、関係を悪くしたりといった事例です。それが自分自身に向くと、「私はどうせ、●●だから…」と個人の可能性を制限してしまう方向に働くこともあります。

 

職場メンバーに対して平等に接している「つもり」でも、自分でも気づかないうちにバイアスがかかっていれば、評価や仕事の割り振り、日常のコミュニケーションの頻度や、出された意見の取り扱い方に影響を与え得るということです。ちなみに、実際のバイアスの表出が些細な出来事や評価に対してであって、ほんの数%という小さな差分であったとしても、それが積み重なることで、組織全体のダイバーシティ・マネジメントに大きな影響をもたらすという研究もあります。

 

 

バイアスと上手に付き合う

バイアス自体は悪いものではありません。冒頭に書いた通り、自己防衛のための脳の大切な働きであり、私たちが短時間で効率的に情報を処理し、意思決定するのを助けてくれるものでもあります。バイアスは誰にでもあるので、まずは自分にもバイアスがあることを受け入れるのが、アンコンシャス・バイアスと上手に付き合う初めの一歩です。

その上で、自分がよく陥りがちなバイアスの種類を自覚しておくことや、一瞬だけでも立ち止まって、自分の判断を見直すことで、バイアスの影響を低減することができるでしょう。

また、アンコンシャス・バイアスのことを知ると、人のバイアスが気になり始める場合も多いです。そのようなときは、「それはバイアスだ!」「思い込みだ!」と指摘するよりは、問いかけ方式で、他の視点や可能性を提示してみることが有効です。

 

まずは日常で発生している自分の思い込みや当たり前に気づくべく、アンテナを張ってみましょう。そうすることによって、職場でのメンバー一人ひとりの見え方が少しずつ変わり、多様性が活かされるチームづくりの具体的な行動変容につながります。

 

<参考>

ダニエル・カーネマン(2014):ファスト&スロー, 早川書房

 

<執筆>

ダイバーシティ&インクルージョンコンサルタント、東京大学バリアフリー教育開発研究センター 特任研究員:藤原 快瑤

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